北海道大学大学院の中村公則教授と玉腰暁子教授らの研究グループは、人の睡眠時間が短いほど小腸のαディフェンシン分泌量が低いことを示すとともに、睡眠不足が腸内細菌叢の破綻や短鎖脂肪酸の低下と相関があることを初めて明らかにした。
睡眠不足は心血管疾患や脳血管障害、がん、糖尿病、うつ病や認知症など多くの疾患のリスクとなることが分かっている。近年、睡眠不足が腸内細菌叢の破綻を誘導し、腸内細菌叢の破綻は疾患リスクの亢進に関与することが示されていた。しかし、睡眠不足が人の腸内細菌叢の組成に影響を及ぼすメカニズムはこれまで不明だった。
研究グループは、北海道に居住する35名の中高年健常者の睡眠記録と提供を受けた便とを用いて、睡眠と、小腸のパネト細胞からのαディフェンシン(腸管自然免疫の作用因子である抗菌ペプチド)の分泌量、腸内細菌叢およびその代謝物との関連を詳細に解析した。
その結果、睡眠時間が短いほどαディフェンシン分泌量が低いことが分かった。そして、そのことが睡眠不足における腸内細菌叢の破綻と免疫系の機能に重要な菌代謝産物である酢酸や酪酸など短鎖脂肪酸の低下に関与することが明らかになった。
今回の研究により、睡眠不足に伴うαディフェンシン低下が、疾患リスク亢進との関係が知られている腸内細菌叢の組成変化に関与する可能性が示され、睡眠障害における自然免疫と腸内細菌叢を介した脳腸相関の影響が初めて明らかになった。今後、αディフェンシンの分泌誘導をターゲットとした睡眠障害に対する予防法や新規治療法の開発が期待されるとしている。