名古屋大学大学院理学研究科の久本直毅教授の研究グループは、線虫をモデルとした研究により、細胞を殺す役割を果たす「死神」役のタンパク質が、切断された神経に「死んだフリ」をさせることで切断神経の再生を誘導することを見出し、その仕組みを解明した。

 生物は体内に生じた不必要な細胞が死ぬことにより、自らを排除する仕組みがあることが分かっている。その中心となるのはカスパーゼと呼ばれるタンパク質であり、これが活性化されると細胞は死に至る。すなわち、カスパーゼは死を執行する「死神」といえる。

 今回、同研究グループは、線虫をモデルとした解析により、軸索を切断された神経内では、カスパーゼが特定のタンパク質の一部のみを切断することで、神経を“殺さず”に、“死んだ”というシグナルだけを外部に放出させることを見出した。さらに、この「死んだフリ」のシグナルが、神経軸索の再生を促進し、神経軸索再生を誘導することを初めて解明した。

 本研究成果は、細胞の死を執行する「死神」役のタンパク質が、死とは真逆の生命現象である再生を促進する機構について明らかにしたものである。この意外な現象の解明により、これまで想定されていなかった新たな再生促進機構が明らかになったと同時に、死と再生に関するカスパーゼの新たな役割も解明できた。

論文情報:【Nature Communications】Phosphatidylserine exposure mediated by ABC transporter activates the integrin signaling pathway promoting axon regeneration

大学ジャーナルオンライン編集部

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