広島大学、京都大学、台北医学大学の研究グループは、ヒトの多能性幹細胞から作製した脳組織が将来的に、法的に「人」と見なされうることを指摘した。

 近年、ヒトの多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)からヒト脳組織(ヒト脳オルガノイド)を作製する研究が進んでいる。ヒト脳オルガノイドは現在、「物」として扱われるが、いずれ意識を持つ可能性もあり倫理的な検討がされている。研究グループは、議論が不十分な法的地位の検討を行った。

 法律上の「人」は通常、「自然人」と「法人」に分類される。自然人の死を脳死とする場合、脳活動を示すならヒト脳オルガノイドも自然人だとする見解がある。否定する理由は2つあるが決定的ではないという。

 一つは、脳死は脳の「全身を統合する活動」の停止だが、現在のヒト脳オルガノイドにその能力はないというもの。しかし、ヒト脳オルガノイドを他の組織と結合させる研究は急速に進み、ごく基本的な「全身」統合能力を持つ可能性がある。

 もう一つは、「出生」は胎児が母体から出てくることと定義されるため、ヒト脳オルガノイドは法的に「出生」していないというもの。しかし、現在では未熟な胎児を母胎から取り出し、医療的処置の後に母胎に戻せるため、その定義はすでに混乱を生じている。

 「法人」については、福祉の主体である動物や、川などの自然を法人と見なす例もあり、社会がヒト脳オルガノイドに特別な価値を認めて法人とする可能性もある。

 ただ、ヒト脳オルガノイドを自然人とすると細胞提供者と同一遺伝子のクローンとなってしまうという問題もある。ヒト脳オルガノイド研究の在り方については、法的課題の検討も含めた社会的な議論が重要だとしている。

論文情報:【Journal of Law and the Biosciences】The Legal Personhood of Human Brain Organoid

大学ジャーナルオンライン編集部

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