九州大学大学院理学研究院の祢冝淳太郎准教授と射場厚教授らの研究グループは、植物科学の長年の謎であった気孔の葉緑体の機能を解明した。
植物は陸上に進出する際に、水分蒸発を防ぐためのクチクラ層を生み出した。それと同時に、CO2の取り込みや蒸散を行うための「気孔」を体表面に発達させた。気孔の細胞(孔辺細胞)は葉緑体を持つことが知られているが、その成り立ちや機能については良く分かっていないままだった。
今回、同研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナを用いた遺伝学的解析により、孔辺細胞の葉緑体が他の光合成細胞とは異なることを見出した。すなわち、孔辺細胞の葉緑体は、葉緑体の祖先とされる光合成細菌(シアノバクテリア)から引き継いだ脂質代謝経路「原核経路」を退化させ、宿主である真核細胞の脂質代謝経路「真核経路」を主に利用し、葉緑体の形成や機能を維持していることが分かった。また、この孔辺細胞の葉緑体が形成されなくなると、CO2による気孔開閉応答が抑えられることも明らかにした。
本研究成果は、孔辺細胞の葉緑体が独自の脂質代謝バランスを発達させており、植物の CO2感知機構に重要な働きを担っていることを初めて明らかにしたものである。本成果により、植物科学の長年の謎であった気孔の葉緑体の存在意義を解き明かすだけではなく、近年急激に上昇している大気中の CO2濃度が農作物に及ぼす影響を理解するのに役立つと期待される。