東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の渡邉悠樹講師は、米ハーバード大学のVishwanath教授、マサチューセッツ工科大学のPo研究員、独マックスプランク研究所のKhalaf研究員との国際共同研究で、近年注目されている「トポロジカル結晶絶縁体」や「高次トポロジカル絶縁体」と呼ばれる一連の物質群を包括的に取り扱うことができる新理論を提案した。
従来、身の回りの物質は伝導性や磁性といった性質に着目することで分類されてきた。しかし今世紀に入り、これまで見過ごされてきた「トポロジー」(滑らかな変形に対して不変に保たれる性質)の違いによっても物質の性質が大きく変わることが明らかになり、物質のトポロジカルな性質が世界中で盛んに研究されるようになっている。
本研究グループは近年、物質のトポロジーと結晶構造の対称性の関係を精力的に研究してきた。今回の研究は、これをさらに発展させ、最新の研究により発見された「トポロジカル結晶絶縁体」や「高次トポロジカル絶縁体」といった新種の物質群のトポロジーと、結晶構造の対称性との関係を詳細に調べ、表面の金属状態の構造を系統的に調べたもの。結晶の持つ全230種類の対称性に基づいて、トポロジーの分類や表面状態の解析を行った結果、新しいクラスを含む一連のトポロジカル絶縁体に対する包括的な新理論を、世界に先駆けて整備するに至った。
この成果は、今後トポロジカル物性を示す新物質を探索していく上での指導原理となり、これを応用した新デバイスの開発、スピントロニクスや量子コンピューターの発展に役立つと期待される。