東京大学の日影千秋特任助教を中心とする研究グループは、すばる望遠鏡による宇宙の3次元ダークマターの空間分布について最も深く(過去の宇宙)かつ広い天域の地図を作成し、解析した。グループには他に、国立天文台、名古屋大学、米国プリンストン大学、米国カーネギーメロン大学、台湾中央研究院天文及天文物理研究所が参加。

 ダークマターは原子ではない未知の物質で宇宙の80%以上を占め、宇宙の構造形成に役割を果たすとされる。このダークマターの重力によって光の軌道が曲げられる現象は重力レンズ効果と呼ばれ、銀河や銀河団など重力の強い領域を光が通過すると、その効果により銀河の形がゆがんで観測される。そのうち、ゆがみの程度が小さいものが弱い重力レンズ効果と呼ばれ、これにより宇宙のダークマターの地図を作り、宇宙の構造の形成過程を知ることができる。

 すばる望遠鏡はハワイのマウナケア山頂に設置された国立天文台の主力光学望遠鏡で、2012年に望遠鏡の主焦点に世界最高性能の大型広視野デジタルカメラ「ハイパーシュプリームカム(HSC)」 が設置された。本研究はこのHSCによる精密宇宙論の最初の成果だ。

 今回、約1000万個の銀河の形状における重力レンズ歪み効果の観測に成功し、銀河などの宇宙の構造の形成の度合いを表す物理量を精密に測定した。今回の結果と欧州宇宙機関(ESA)の宇宙背景放射観測衛星Planckや他の宇宙観測の結果と合わせ、宇宙最大の謎であるダークエネルギー(宇宙の膨張を加速するエネルギー)の性質についての知見が得られた。今回のHSCの結果は、全計画のわずか約10%のデータを用いたもので、今後、宇宙模型やダークマターに関しさらに解明が進むとみられる。

論文情報:Cosmology from cosmic shear power spectra with Subaru Hyper Suprime-Cam first-year data
※本研究成果は2018年9月26日にプレプリントサーバー (https://arxiv.org/abs/1809.09148) で公開され、日本天文学会欧文研究報告 (Publications of the Astronomical Society of Japan; PASJ) に投稿されて専門家による査読が行われる

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