新潟大学の永井康介歯科医師(歯学系大学院生)らの研究グループは、市中肺炎球菌の8割以上が抗生物質(マクロライド系)の効かない耐性菌であることを明らかにした。
肺炎球菌は、高齢者に肺炎を起こし、小児に中耳炎を引き起こす。治療には抗生物質が使用され、以前は効き目があったが、頻繁に用いられるようになると肺炎球菌に耐性が生じ、年々抗生物質が効きにくくなってきた。近年では国内の肺炎による毎年の死亡者数が10万を超え、死因の第3位になった。肺炎による死亡率は高齢者ほど高く、肺炎による死亡者の95%は65歳以上だ。高齢社会の今日、肺炎の主たる原因菌の肺炎球菌について、薬剤耐性度を正しく理解して対策を行う必要がある。
これまで、耐性菌は大規模病院の入院患者に増加していると考えられていた。しかし、今回の研究により、2014年から2017年にかけて新潟市の中耳炎患者から分離された2,608株の肺炎球菌のうち、82%がマクロライド系抗生物質(注)の効かない耐性菌と判明。市中において日常生活を過ごす人達にも、マクロライド系抗生物質が効かない耐性肺炎球菌が広く流布していることを示した。さらに、市中肺炎球菌の38%はペニシリン系抗生物質に耐性であり、両方の抗生物質が効かない菌やニューキノロン系抗生物質にも耐性な多剤耐性菌までが市中に分布していることが分かった。
経口マクロライド系抗生物質は国内使用量が多く、政府は2020年までにその使用量を半減させる目標を掲げている。今回、マクロライド系抗生物質の使用制限の必要性が科学的に証明された。研究グループは、抗生物質に頼らない新規治療法や予防法の開発を進める一方で、AMRの知識を啓発する活動も展開している。
(注)抗菌作用により9つに分類される抗生物質の1つ。グラム陽性菌・非定型病原体に対する抗菌力が強いとされる。