広島大学の杉拓磨准教授、北海道大学の佐藤勝彦准教授および中垣俊之教授らは、手も足も羽もない線虫が、静電的引力を利用して遠くへ移動することを発見した。
線虫は、手足も羽もなく、わずか体長1ミリメートル以下の小さい生き物にも関わらず、世界中の至るところで発見されている。過去の研究から、線虫が世界中に拡がって種を拡散する手段として、他の動物の体表に付着して移動する“便乗行動”が知られる。しかし、小さな線虫がどのようにして昆虫や動物に乗り移るのかは不明だった。
ヒントが得られたきっかけは、2019年に杉准教授が別の研究のために行っていた線虫の大量飼育だった。シャーレ内の寒天培地上に置いたはずの線虫が、なぜか数秒後には、大量にシャーレのフタに移動しているという不思議な現象に直面した。手も足も羽もない小さな線虫が、シャーレの培地上から距離にして30ミリメートル以上あるフタまで、数秒以内に蛇行運動でたどり着くのはほぼ不可能なはずである。そこで、光学顕微鏡下で観察したところ、寒天培地上の線虫が突然消え、次の瞬間、シャーレのフタに現れるという「瞬間移動」が起きていることを発見した。
この瞬間移動について、本研究グループで議論の結果、「帯電した線虫が、シャーレのフタの静電気による引力を利用してフタに移動している」という結論に至ったという。さらに驚くことに、1個体の線虫が最大100個体近くの線虫を持ち上げて、その集団ごと飛び移る集団移動も確認された。
本発見をもとに、便乗行動を検証するため帯電したマルハナバチを線虫に近づけた結果、線虫が集団で空間をジャンプしてハチに飛び乗ることが確認された。すなわち、線虫は自ら帯電し、電場を利用することで、静電気を帯びた昆虫に集団で飛び乗って移動していると考えられる。
このように、線虫などの小さな生き物は帯電しやすいため、今後、小さな生き物の世界の研究では、電気的相互作用にも着目することで新たな発見が得られることも期待できる。