熊本大学大学院の東大志准教授と後藤唯花大学院生(当時)らのグループは、タンニン酸と超高分子量のポリエチレングリコールを水中で混合すると、よく伸張するゲルを得ることを見出した。
お茶の渋みの原因であるタンニン酸(TA)が、ポリエチレングリコール(PEG)[別称、ポリエチレンオキシド(PEO)]と水中で混合するだけでゲルを形成するという先行研究[Kimetal.,Adv.Funct.Mater.]を参考に、研究グループは超高分子量のPEG(PEO)(分子量50万)で試行した。その結果、TAと水中で混合した瞬間、既報のTA/PEGゲルとは全く性質の異なるゴム状のゲルが得られた。このゲルをTaPeOゲルと命名し、その性質を追究した。
その結果、TaPeOゲルを、水分を含んだ状態で引っ張るとよく伸び、最大1,000%の伸長率を示すことが分かった。TaPeOゲルは乾燥させると軽量で強靭なプラスチック様の素材に変化した。
また、乾燥TaPeOゲルを破断しても、破断面を湯に浸し再接着させると、元通りになった。乾燥TaPeOゲル自体は固い素材だが、湯に浸して応力を加えると変形可能だった。変形した素材を再度、湯に浸すと最初の形に戻ったことから形状記憶能を有すると判明した。
さらに、TaPeOゲルの調製時に生じる不要な上清を捨てずに乾燥すると、伸長率1,500%以上と、極めてよく伸びるフィルム(TaPeOフィルム)を調製できた。すなわち、TAとPEOを用いると、“ごみゼロ”で強くて賢いゲルやフィルムを調製できた。
タンニン酸は安価で安全性も高く、環境に優しい素材だ。さらに、抗菌作用や抗ウイルス作用も持ち、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果も報告されている。今後は、このような知見を有効活用し、医療材料等に応用していく予定としている。