慶應義塾大学経済学部の大久保敏弘教授とジュネーブ高等国際問題・開発研究所のRichard Baldwin教授の共同研究により、人工知能(AI)とテレワークなどのリモートインテリジェンス(RI)は代替関係ではなく、補完関係にあることが示唆された。
新型コロナパンデミックを外生的ショックとし、テレワーカーのようなRIの増加が誘発された。同時に、デジタル技術の活用により生成AIに代表される業務自動化を促進するAIの利用も高まっている。
これらが雇用に及ぼす影響は、現実的に大きな懸念だが、AIとRIがどのような関係性にあるかは明らかとなっていない。例えば、AIによるチャットボットが遠隔地にいるコールセンターの労働者に置き換わるならば、両者は代替関係にあると言えるし、AIによる自動翻訳が、遠隔地にいる非英語圏の労働者が英語圏の仕事を引き受けることを促進するならば、両者は補完関係にあると言える。
このようなAIとRIの職業レベルでの労働代替性について、本研究では、新型コロナ禍において大久保敏弘研究室とNIRA総合研究開発機構が継続的に実施してきた、約1万人の就業者から収集した調査データを用いて分析した。
その結果、まず、日本の文脈においては、AIとRIを促進するソフトウェアの利用状況に正の相関が確認された。特に、オフィスワーカー、専門職でAIとRIを促進するソフトウェアの利用率が高いことが判明した。
次に、2020年3月から2022年6月にかけてのAIおよびRIを促進するソフトウェアの使用状況変化を見ると、新型コロナ禍でRIの利用が加速するにつれて、AIの利用も高まっていたことがわかった。さらに、将来のRIの利用について肯定的回答が多かった職業では、将来のAIの利用についても同様に肯定的な回答が多いことが確認された。これらの結果は、AIとRIが代替関係にはなく、補完関係であることを示唆する結果である。
本報告は、労働の将来に対する貴重な洞察を提供するものである。なお、日米の比較では、米国に比べて日本の職業はAI、RIの利用可能性ともに低かったことも報告した。