東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎フェローらは、妊娠時のストレスが、子の成長後に高血圧発症の原因となることを明らかにした。

 妊娠中の低栄養などによる低出生体重児は、成長後にさまざまな生活習慣病を合併しやすくなることが知られている。
過去の知見から、発症の原因は高濃度コルチゾールへの暴露と推測されてきた。ストレスホルモンである糖質コルチコイドのコルチゾールは、妊娠後期に増加し、正常妊婦では代謝分解される一方、低栄養の妊婦ではこの防御機構が破綻し、胎児が高濃度のコルチゾールに暴露される。しかし、出生後はコルチゾールの値が正常化するので、なぜ成長後に生活習慣病を発症するのかは不明だった。

 本研究では、胎児期の高濃度コルチゾール暴露により生じた高血圧遺伝子の活性化が、エピジェネティク機構(ヒストン修飾やDNAメチル化といった遺伝子発現調節機構の変化)により記憶として残り、成長後に高血圧を発症させるという仮説に着目。妊娠時に低蛋白食を与えたラットと合成糖質コルチコイドを投与したラットを用いて検討した。

 その結果、いずれのラットの子も出生時は体重であったが、成長後は肥満となり、食塩摂取により血圧が上昇する食塩感受性高血圧を発症。これらのモデルラットはDNAメチル化が減少しており、結果として血圧調節に関連するアンジオテンシンI型受容体遺伝子の発現が増加していた。つまり、胎児期のストレスホルモンへの暴露により脳内の遺伝子発現調節機構が破綻することが、成長後の食塩感受性高血圧を生じる機序と判明した。

 本成果は、妊娠中の悪環境が子の生活習慣病の原因となりうること、周産期の環境整備の重要性を示唆している。

論文情報:【JCI-Insight】Aberrant DNA methylation of hypothalamic angiotensin receptor in prenatal programmed hypertension

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