名古屋大学の研究グループは、ナスのヘタ(萼)に含まれる天然化合物である9-oxo-octadecadienoic acid(9-oxo-ODAs)が子宮頸癌細胞に対して抗腫瘍効果をもたらすことを明らかにした。
日本ではヒトパピローマウイルス(HPV)関連疾患である尋常性疣贅にナスのヘタが民間療法薬として使用されていた背景がある。加えて、本研究グループはこれまでにナスのヘタのエタノール抽出物が同じくHPV関連疾患である尖圭コンジローマを抑制することを報告し、有効成分9-oxo-ODAsの同定に至っている。
今回の研究では、尋常性疣贅、尖圭コンジローマと同様にHPVの感染により発症する子宮頸癌に対する9-oxo-ODAsの効果を検討した。ヒト子宮頸癌細胞に9-oxo-ODAsを投与して影響を調べたところ、細胞分裂に関与するサイクリン依存性キナーゼ1(CDK1)の発現が抑制され、子宮頸癌の発癌に関与するHPV由来のE6、E7タンパクの発現も抑制されることがわかった。結果として9-oxo-ODAsの投与により子宮頸癌細胞の増殖は抑制され、アポトーシス(細胞死)の数も増加することが見出された。
マウスモデルを用いた実験においても、9-oxo-ODAsを投与すると子宮頸癌細胞の転移形成や増殖を抑制できることが明らかとなり、子宮頸癌細胞に対する抗腫瘍効果を確認することができた。
子宮頸癌は世界の女性のがん関連死亡の主要原因の一つとなっている。本研究により、9-oxo-ODAsがCDK1やHPV由来タンパクの発現を抑制することによって子宮頸癌細胞の細胞周期停止、アポトーシスを誘導して抗腫瘍効果を示すことが判明したことで、9-oxo-ODAsがHPV関連疾患に対する有望な治療薬となり得ることが期待される。今後、9-oxo-ODAsの作用機序をより詳細に調査したうえで、子宮頸癌やその前癌病変である子宮頸部異形成への創薬と臨床治療への応用につなげることを目指すとしている。