北海道大学大学院の先崎理之准教授らの研究グループは、国立環境研究所と共に、自動車騒音が鳥類の個体数や捕食の頻度等だけでなく、無脊椎動物消費者であるバッタ類の食性を多様化させ、その影響は騒音が十分減衰する騒音源から300m程度の範囲でも生じることを解明した。
近年、自動車や航空機等の騒音が野生動物に与える影響が問題視されている。しかし、従来は脊椎動物の行動に対する騒音の影響が注目され、植物や小動物の死骸等の消費を通して重要な生態系機能を担う無脊椎動物に対する騒音の影響は十分に調査されていなかった。
研究グループは、北海道胆振地方の草地で、スピーカーを用いた自動車騒音の野外再生実験を実施。糞中の植物質・動物質の餌を分析し、雑食性バッタ類の食性に騒音がどのように影響するのかを調べた。
その結果、騒音にさらされたバッタ類は、特定食物の専食をやめて多種の食物を摂取するようになった。また、この食性変化は、高レベルの騒音にさらされた場所に加えて、騒音が十分減衰する騒音源から300m程度離れた場所でも検出された。さらに、この食性変化は、鳥類や捕食圧(バッタ類に対する鳥類の捕食の割合)の減少といった騒音の間接効果ではなく、騒音の直接効果によって説明されることが分かった。
これにより、騒音汚染は陸域の生態系機能を担う無脊椎動物の食性に影響する重要な要因であること、その影響は従来の想定範囲よりも広域に及ぶ可能性が明らかになった。生物多様性や健全な生態系の保護には、静かな地域の特定・保全に加えて、自然保護区には十分な広がりのある緩衝地を設定し、騒音源への対策を強化する必要があるとしている。