名古屋大学の研究グループは、有機反応の不斉触媒としてU字型超分子錯体を用い、これまで合成が困難であった望みの物質を高選択的かつ高収率で得ることに成功した。

 触媒とは化学反応を促進し、それ自身は変化しない物質のことである。生体内では酵素が触媒の働きを担っており、触媒活性部位の近くにある「鍵穴」と呼ばれる空洞が、特定の原料化合物(基質)を選択的に取り込み(基質選択性)、特定の化学反応を促進することで(反応選択性)、目的の生成物を得ている。

 一方、従来の化学触媒(人工酵素)は比較的単純な形状で、酵素のような精巧な鍵穴を持たないため、基質選択性や反応選択性などの機能がない。化学合成で望みの物質だけを選択的に合成するのは容易なことではなく、多くの場合、様々な反応が同時に起こって混合物が生成されてしまう。

 この問題に対し、本研究グループは、あらかじめ分子設計した酸と塩基を混ぜるという簡単な操作でU字型の「テーラーメイド」超分子触媒を調製した。この錯体を様々な反応で触媒として試したところ、望みの生成物を高収率で得ることができた。

 超分子触媒の鍵穴のサイズを計算で見積もったところ、基質の配位から生成物の排出に至る過程で、鍵穴の形が狭くなったり開いたりと都合よく変化することがわかった。この配座柔軟性は、酵素の「誘導適合」(酵素の鍵穴が化学反応を触媒するのに都合よく変化する現象)と同じであり、触媒がU字型で適度なしなやかさを持っているがゆえに発現したと考えられるという。

 酵素に匹敵する多重選択性を人工触媒として初めて達成した本成果は、有機反応を自在に操る触媒設計法の確立へ向けた大きな前進だと言える。

論文情報:【Journal of the American Chemical Society】Chiral Supramolecular U-Shaped Catalysts Induce the Multiselective Diels–Alder Reaction of Propargyl Aldehyde

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