理化学研究所と東京大学などの国際共同研究グループは、アミノ酸の一種であるメチオニンを若齢期のみ摂取制限するだけで寿命が延長することを、ショウジョウバエによる研究で明らかにした。
食事(食餌)制限が寿命延長効果を示すことはさまざまな生物で確認されており、中でもタンパク質を構成するアミノ酸の一種「メチオニン」を制限するだけで、線虫、ショウジョウバエ、マウスなど幅広い生物の寿命が延長することが証明されている。
しかし、ヒトを含む動物が常に食事制限をして生きるのは本能的にも難しい。本研究では、メチオニン制限による寿命延長効果がライフステージによって変化するのか、ショウジョウバエを用いて時期を限定したメチオニン制限が寿命に与える効果を検証した。
その結果、若齢期(羽化後5~32日)にメチオニンを制限した個体の寿命が延長した一方で、中年期以降(羽化後32日以降)にメチオニン制限を行っても寿命延長は認められなかった。また、若齢期の4週間メチオニンを制限する方が、中年期の4週間に行うよりも寿命延長効果が強まることがわかった。
この分子機構を明らかとすべく、遺伝子発現を解析したところ、若齢期のメチオニン制限では抗老化能を持つ多くの遺伝子が発現増加していた。特に、体内で酸化された酸化型メチオニンを回復(還元)させる「メチオニンスルホキシド還元酵素A(MsrA)」が大幅に増加しており、メチオニン制限をした若齢個体では体内の酸化型メチオニンが低下していた。しかし、老齢個体ではこの効果が認められなかった。以上から、メチオニン制限はMsrAを誘導して寿命を延長させるが、その効果は若齢期に限定的であり、老齢個体では効果が減弱(消失)する可能性が示唆された。
今後は、ショウジョウバエでの発見がどの程度ヒトに当てはまるのかの検証が必要だが、本研究は、食事制限による寿命延長効果が加齢によって弱まる可能性を示唆した。食事を介した健康増進法の構築・改良のほか、食事制限をせずとも健康寿命延伸に資する新規方法論の開発にも貢献することが期待される。