名古屋大学の吉村崇教授らの研究グループは、基礎生物学研究所/生命創成探究センターとの共同研究により、メダカに内因性のリズムを刻む「概年時計」が存在することを明らかにし、1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を世界で初めて同定した。
春に繁殖し冬に渡りや冬眠をするなど、生物は進化の過程で毎年必ず訪れる季節変化を予知し積極的に対応する仕組みを獲得した。それが、概ね(おおむね)1年の内因性のリズムを刻む体内時計「概年(がいねん)時計」だ。しかし、その仕組みが明らかになった生物はない。
研究グループは今回、メダカを屋外の自然条件下で2年間飼育し、生殖腺(卵巣)の発達の変化を観察した。その結果、メスのメダカの卵巣が毎年、4月、5月に発達し、梅雨の時期に一度退縮した後、再び7月、8月に発達するという明瞭なリズムを示すことを見出した。
さらに、メダカ脳の視床下部と下垂体を2年間毎月採集・解析したところ、3,341個の遺伝子が1年のリズムを刻んでいた。そのうち、季節変化のない実験室内の恒常条件下で約1年のリズムを刻む518個の「概年遺伝子」を同定した。この518個のうち特に、屋外の自然条件下と実験室の恒常条件下で共通して1年のリズムを刻む98個の遺伝子が特に重要と考えられ、解析により細胞分裂や細胞分化に関わる遺伝子が多いと判明した。
ヒトも心疾患・脳血管疾患・肺炎・インフルエンザや、うつ病・双極性障害・統合失調症などの精神疾患が冬に重症化し、冬季に死亡率が顕著に上昇するが仕組みは不明だ。今後、概年遺伝子研究の進展により、ヒトの季節性疾患の分子機構など、様々な生物の季節的リズムの分子機構解明が期待されるとしている。