早稲田大学の掛山正心教授らの研究グループは、集団生活しているマウスの社会的近接性を調べるため、個々のマウスの位置情報を自動検出する解析ソフトウェアの開発に成功。これにより、隔離飼育されたマウスの「周囲に馴染まない」行動は、集団飼育されたマウスとの同居で改善することが分かった。

 マウス・モデルを用いた実験研究は生命の謎の解明と治療薬の開発に多大な貢献をしているが、人間の高度な精神機能のすべてをマウス実験で解明することは難しく、特に社会性を生み出し制御する機能の解明は進んでいない。研究グループはこれまで、マウスの集団生活中の行動変化の解析により、発達期の様々な問題による社会行動の変容を明らかにしてきた。

 研究グループは今回、集団生活するマウスの個体識別と位置情報の取得を自動で行う解析ソフトウェア(MAPS)を開発。生後4週齢から成熟までを単独飼育したマウスと集団飼育したマウスを用意し、MAPSを用いて社会的近接性の解析を行った。

 その結果、初対面同士の4個体を同居させた時、思春期に社会的隔離を経験したマウスは、集団生活をしていたマウスに比べて「周囲に馴染む」(社会的近接性が向上する)までに数倍の日数を要した。さらに「周囲に馴染む」のが得意でない個体同士であっても、社会的近接性の高い個体が同居していると素早く馴染めるようになった。このようなマウスの社会的近接性は、予想以上に人間と類似することが判明した。

 今回開発された解析ソフトウェアを用いた研究が進むことで、社会の中で成長する人間の「こころ」とは何かが解明され、自閉スペクトラム症(ASD)や社会不安障害などの精神疾患の治療法開発が進展すると期待される。

論文情報:【Communications Biology】Multiple animal positioning system shows that socially-reared mice influence the social proximity of isolation-reared cagemates

早稲田大学

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