名古屋大学と大阪大学、長浜バイオ大学の研究グループは、細菌が持つ運動器官“べん毛モーター”において、タンパク質の一つFliGの構造動態が回転方向決定に支配的な役割を果たすことを解明した。
細菌は、べん毛という螺旋形をした繊維状の運動器官をスクリューのように回転させることで、推進力を生み出し水中を泳いでいる。べん毛の根元には回転モーター(“べん毛モーター”)が存在し、F1マシンのエンジンの回転数に匹敵する超高速で回転するという。
べん毛モーターが時計回りで回転すれば後退し、反時計回りで回転すれば前進することができるが、この回転方向制御においてクラッチの役割をすると考えられているのが、べん毛モーターを構成するタンパク質の一つ、FliGだ。しかし、その詳細な分子機構は解明されていなかった。
本研究では、海洋性ビブリオ菌のFliGを用いて、回転方向制御に異常をきたす変異を遺伝子組み換え技術で導入し、FliGの構造変化と回転方向制御機構の関係を調べた。その結果、FliGの構造の中で蝶番のような役割を果たしている領域に変異が導入されると、回転方向が時計回りあるいは反時計回りに固定されることがわかった。また、FliGと相互作用するFliMタンパク質からの走化性シグナルの応答性能に異常をきたす変異が導入されると、回転方向切り替えが過度に生じてその場から進めなくなることがわかった。
ここから、FliGの構造特性およびFliMとの相互作用が、べん毛モーターの回転方向決定と切り替えに重要な役割を担っていることが明らかとなった。この知見をもとに、生物特有の回転方向制御機構が解き明かされれば、自在に方向制御する人工ナノマシンの設計が可能となり、様々な分野に応用できると期待されている。