畿央大学の研究チーム(理学療法学科4年の岩佐しおり氏、博士後期課程の赤口諒氏、森岡周教授ら)は、摂南総合病院と共同で、進行性の脊髄小脳変性症患者が壁面への軽いタッチを行うことで、過度な筋肉の収縮を伴わずに安定した立位を維持する学習が可能であることを示した。
脊髄小脳変性症(SCD)は、小脳や脊髄後索の運動失調を主要な症状とする進行性の疾患。SCD患者は姿勢バランスの維持が困難であり、多くの症例で転倒が報告されている。姿勢の揺れを軽減する手段としてライトタッチが知られているが、これは通常、指先で行われ、四肢の運動失調があるSCD患者では適切な感覚情報の取得が困難になることがあり、適用されていなかった。
今回、立位と歩行の能力が著しく低下していた60代のSCD患者を対象に、4期(1期1週間)にわたり段階的に理学療法を進めた。介入初期・中期は体を壁面に軽く接触させてリラックスした状態での静的立位保持の練習を行った。静止立位が安定した後期には,随意的な重心移動と道具を用いた関節間協調運動の練習を行い、歩行練習も計画通りに実施した。
その結果、立位姿勢バランスの改善と運動失調、日常生活動作(ADL)の向上が見られ、患者は歩行器を用いて自立歩行が可能な状態で退院した。これらの効果は姿勢動揺および立位保持時の筋活動の分析を通じて検証された。安定した静的立位姿勢の維持が,過剰な筋活動の抑制に寄与し,それが動的な姿勢バランスの練習へとつながることが確認された。
今回の結果は、段階的な介入によって進行性SCD患者にも顕著な理学療法の効果が得られることが示唆されたとしている。