学習院大学、岩手大学、基礎生物学研究所、国立遺伝学研究所らのグループは、鱗翅目昆虫のモデル生物であるカイコおよびイチジクカサンの雌ゲノム配列を過去最高の精度で決定することに成功した。
鱗翅目昆虫では、性染色体として雄がZ染色体を2本、雌がZ染色体とW染色体を1本ずつ持つ。カイコのW染色体からは、2014年に雌性決定遺伝子Femが単離されたが、そのほかの遺伝子の存否はおろか、配列・構造すら明らかになっていない。カイコのW染色体が謎に包まれている理由は、そのほとんどが反復配列に占領されていると予想され、配列解読が困難なためである。
今回は、最新のロングリードシーケンシング技術を用いて、カイコと、同じくカイコガ科に属するイチジクカサンの雌ゲノム解読を実施した。従来、アセンブリ(ゲノム配列を計算機で復元すること)が不可能と考えられてきたが、高精度の配列解読技術により、2種のW染色体配列を1本にアセンブリすることに成功した。
カイコのW染色体は、従前の予測通り、その90%近くが反復配列に占領され、LTR型レトロトランスポゾン(ゲノム中の可動性因子のひとつ)が大きな割合を占めた。イチジクカサンのW染色体でも、カイコほど極端ではないにせよ、LTR型レトロトランスポゾンの割合が多いことがわかった。
興味深いことに、両種のW染色体から発現している遺伝子は、Z染色体上に座乗する遺伝子と相同性があることを発見し、W染色体がかつてZ染色体から異型化して生じたことが示唆された。
Femについても、カイコガ科の中でもカイコとそのごく近縁種(クワコなど)だけが持ち、イチジクカサンのW染色体には存在しないことがわかった。さらに、カイコとイチジクカサンのW染色体の配列比較から、Femはトランスポゾンが複数融合して偶然に誕生した蓋然性が高いことが判明したとしている。
カイコのW染色体の配列が明らかになったことで、今後、遺伝子ノックインなどの技術で雌性特異的なゲノム編集が可能となる。さまざまなカイコ系統のW染色体配列の解読および比較解析が進むことで、カイコガ科の性染色体進化が解き明かされることが期待される。