虫こぶとは、虫こぶ形成昆虫によって植物に作られる特殊な構造で、食料と住まいを兼ねている。葉にできるもの、茎にできるもの、長い腺毛が生えるもの、腺毛がほとんど無いものなど、さまざまな形態のものがある。
虫こぶは、植物に本来作られる器官とは異なる形態であることから、昆虫が植物の器官形成システムをハイジャックし、自分に都合の良い構造を作っていると考えられる。この形成システムを調べるため、京都府立大学、国立遺伝学研究所、京都産業大学らの共同研究グループは、ヨモギをホスト植物として虫こぶの形態と発現遺伝子の解析を行った。
まず、虫こぶの内部構造を観察したところ、いずれの形態の虫こぶも、中に空洞があり、その中で幼虫が育っていた。虫こぶ内には新たな維管束形成が見られたことから、ホスト植物から虫こぶへ栄養分の供給があることが示唆された。
次に、各虫こぶの発現遺伝子の解析を行った結果、すべての虫こぶで花や果実の発生に関わる遺伝子、翻訳関連遺伝子、非生物ストレス応答遺伝子の上昇が見られた。葉の虫こぶでは、光合成関連遺伝子が抑制され、細胞壁合成関連遺伝子が活性化していた。茎の虫こぶでは、細胞壁関連遺伝子が抑制されていた。これらの結果は、通常の植物が、葉で日長などの環境変化を感じた後に葉を作るフェーズから花を作るフェーズに転換するのに対し、虫こぶでは、葉の上で花や果実を作る遺伝子がいきなりオンになっていると言えるという。すなわち、虫こぶでは、元のホスト植物の光合成器官(ソース器官)から、花や実のような蓄積器官(シンク器官)への運命転換がダイナミックに起こっていることが示唆される。
将来的には、この仕組みを明らかとし、応用することで、農作物の葉の上に直接果実を作るように、植物器官を自在に作る技術の開発につながることが期待される。