名古屋大学と大阪大学の共同研究で、海洋性ビブリオ属細菌のべん毛の足場複合体であるSリングの構造が解明された。
細菌は遊泳(移動)するためにべん毛と呼ばれるらせん状の繊維構造の運動器官を持ち、根本に存在するべん毛モーターをスクリューのように回転させることによって液体中を泳いで栄養源を求めたり、危険な環境から逃れたりすることができる。べん毛モーターの基部には、べん毛形成の初期段階において足場複合体として働くSリングという構造がある。これまで、Sリングの詳細な構造は唯一サルモネラ属細菌(以下、サルモネラ菌)でしか報告がなかった。
今回、海洋性ビブリオ属細菌(以下、ビブリオ菌)のべん毛のSリングの構造を、クライオ電子顕微鏡という先端技術を用いて世界で初めて高解像度で解明することに成功し、ビブリオ菌Sリングとサルモネラ菌Sリングの比較が可能となった。ビブリオ菌とサルモネラ菌で、Sリングの構造は共通している点があったものの、いくつかの相違点も認めた。ビブリオ菌では、Sリング構成要素であるRBM3ドメイン間の相互作用がサルモネラ菌よりも弱いこと、RBM3ドメインやβカラーと呼ばれる部位の根元の傾斜角度がサルモネラ菌とは異なることなどがわかった。これらの結果から、個々の細菌に特異的なSリング構造最適化のメカニズムが存在する可能性が示唆された。
本研究成果は、細菌の運動器官の進化に関する理解を深めるとともに、細菌の運動メカニズム解明に寄与することで、将来的には細菌の運動性を制御する新たな技術の開発に繋がることが考えられるとしている。例えば、細菌の運動を阻害したり、逆に促進したりする技術など、広範な応用により、感染症の予防や治療、生体ナノマシンの開発にも貢献することが期待される。