岩手大学の冨田浩史教授らと尚絅学院大学の片山統裕教授の研究グループは、遺伝的に失明に至るラットが、失明後に大脳皮質視覚野全体で音に対する反応の増強が起こることを、今回開発した視覚野活動の簡便な可視化技術を用いて見出した。
脳には外界からの刺激に応じて脳の機能が変化する「脳の可塑性」が知られている。失明の際に視覚に代わり、聴覚や触覚などの感覚機能の高まりが報告されているが、そのときの脳機能の変化については充分に明らかになっていなかった。
今回実験で用いたのは遺伝的に失明に至るRCSラットで、網膜が正常に形成されるが生後3週間から網膜の光受容細胞である視細胞の変性が始まり、生後3か月でほぼ全ての視細胞が消失し失明に至る。
生後3か月のRCSラットの網膜層構造を調べると、網膜層の厚みは正常ラットより有意に非薄化し、視細胞の変性を確認した。また、光刺激への応答は全く見られず、失明が確認された。
視覚野の活動を可視化する内因性光信号イメージング(IOS)法により、正常な視覚のラットでは、画面上に流れる縞模様の視覚刺激を提示した際に両側視覚野で活動を認めたが、盲目ラットでは視覚刺激に伴う視覚野の活動はなかった。一方、正常ラットでは音(聴覚)刺激に対し視覚野の応答を認めなかったが、盲目ラットでは聴覚刺激において明瞭な視覚野の活動が見られた。
これにより、従来、視覚情報の処理を担っていた視覚野の神経細胞が失明により聴覚野と同様に聴覚刺激に応答する神経細胞へと変化したことが示された。IOS法を用いた脳の活動領域の特定方法は、視覚再建治療の評価に有用であり、脳の可塑性のメカニズム解明にも応用できるとしている。