岐阜大学の伊藤直人教授らの研究グループは、北海道大学との共同研究で、狂犬病ウイルスLタンパク質のC末端領域の新たな役割を明らかにした。いまだ存在しない狂犬病治療薬開発への足がかりとなることが期待される。
ウイルス性の人獣共通感染症である狂犬病には有効なワクチンは存在するが、確立された治療法はなく、発展途上国など年間推計5.9万人が犠牲となっている。狂犬病ウイルスのRNA合成酵素であるLタンパク質は、ウイルスのPタンパク質と結合しL-P複合体を形成することで機能するため、その結合の阻害は治療薬開発の戦略となり得る。最近では、L-P複合体の立体構造も決定された。
しかし、Lタンパク質のC末端領域は、Pタンパク質との結合面を形成するが、結合面を形成しない部位がどのような役割をもつかは不明だった。研究グループは今回、Lタンパク質のNPYNE配列に注目。同配列については、伊藤教授らのグループがPタンパク質結合能とRNA合成酵素機能への重要性を以前報告していた。
研究の結果、L-P複合体の立体構造のNPYNE配列は、C末端領域のPタンパク質との結合面から遠く離れた部分に位置し、結合面でない部分も機能的に重要と判明。さらに、1932位のアスパラギン残基(2つ目のN)はRNA合成酵素機能に、1933位のグルタミン酸残基(E)はPタンパク質結合能に、そして1929位のアスパラギン残基(NPYNE配列の1つ目のN)は両機能に重要と分かった。
今回、C末端領域のPタンパク質との結合面ではない部分がLタンパク質のPタンパク質結合能、RNA合成酵素機能、安定性に重要となることが明らかになった。これにより、狂犬病治療薬開発に向けた基盤情報となることが期待されるとしている。