東京大学大学院、お茶の水女子大学、東京都医学総合研究所の研究チームは、マウスにおける糖嗜好性の調節機構の一端を明らかにした。腸管での糖の取り込みが求心性迷走神経を活性化し、脳の前頭皮質を活性化することで糖の含まれる食べ物を好んで摂る(糖嗜好性)行動を促す可能性を見出した。
食物中のグルコース(ショ糖を構成する糖)は、複数の輸送体を介して腸管に取り込まれる。腸内分泌細胞の一部は求心性迷走神経(内臓の状態を脳へ伝達する神経)と直接シナプス結合しており、グルコースの取り込み後、素早く求心性迷走神経を活性化する。この「腸内分泌細胞→求心性迷走神経→脳」へのシグナル伝達経路が、マウスにおける糖嗜好性形成に関与する可能性があるが、どのような機構によるのかは不明だった。
今回、研究チームは、マウスの腸管に直接グルコースを投与した時の脳の皮質全体の応答を観察した。その結果、マウスにおいて糖摂取後数秒以内に求心性迷走神経が活性化し、その情報が前頭皮質の神経細胞(ニューロン)とグリア細胞の1つであるアストロサイトを活性化することを見出した。このシグナル伝達過程には、ドーパミンが重要な役割を担っていることも分かった。
さらに、心理的ストレスを負荷したマウスでは、前頭皮質の活性化が認められず、この「腸→求心性迷走神経→脳」のシグナル伝達経路がストレス依存性の糖嗜好性の変化に寄与している可能性が示唆されるという。
近年、腸脳相関の不調は、嗜好性のみならず代謝疾患や精神疾患などの発症に関連することが示唆されている。今回の成果は、腸脳相関に着目したさまざまな疾患の治療戦略に貢献することが期待されるとしている。