高知大学(松川和嗣准教授)、鹿児島大学(室谷進教授)、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社(HMT)で構成する共同研究チームは、牛肉の品質やおいしさの理解を深める可能性のある重要な低分子化合物を検出した。
人間の体を作るタンパク質の多くはL-アミノ酸からできているが、自然界には鏡像異性体の関係にあるD-アミノ酸もごく微量ながら存在し、その多様な働きが注目されている。研究チームは今回、ほとんど知見がなかった牛肉中のD-アミノ酸について調査した。
研究では、HMT社が開発した高感度化学分析技術(キラル誘導体化LC-TOF/MS法)を用いた。試料は和牛の2品種(黒毛和種、褐毛和種高知系)から得た僧帽筋(体内の筋肉の一部)と、そこから培養した細胞で、食肉処理直後(新鮮で生体と同等な状態)と、食肉処理後7日間熟成させた時点での、D-アミノ酸とL-アミノ酸の種類・量を比較調査した。
その結果、Dセリン(D-Ser)、D-アスパラギン酸(D-Asp)、D-スレオニン(D-Thr)の3つの主要な D-アミノ酸を精確に識別して検出することに成功した。特にD-Thrは、世界で初めて動物の筋肉組織から検出された。
D-Thrは牛肉から検出されたが培養細胞からは検出されず、両方から検出されたD-SerとD-Aspとは異なる。このことは、筋肉組織で検出されたD-Thrが、牛体の筋肉組織外、または牛自身ではないルーメン細菌に由来する可能性を示唆している。
牛肉の美味しさに関与するアミノ酸の中には、L 体と D 体で味覚が異なることが知られている(例えば、L-グルタミン酸は旨味、D-グルタミン酸は酸味)。今後の研究により、D/L アミノ酸の生理学的特性と牛肉の品質の解明が期待されるとしている。