慶應義塾大学の小林英司特任教授らの研究グループは、株式会社ドクターズ・マンとの共同研究により、臓器保存液の中に速やかに水素ガスを圧入することにより、高齢ミニブタ(ドナー)から摘出した血流が止まった状態で、ある程度時間が経過した傷害臓器を移植可能な臓器に蘇生させることを証明した。
心停止ドナーを含むマージナルドナー(標準的ドナー条件を満たさない、高血圧・肥満等を合併したドナー)からの臓器移植は、臓器提供者不足を補い移植待機期間を短縮させるための重要な対策だ。しかし、マージナル臓器では臓器の温阻血障害(通常体温の状態での心停止・血流停止による損傷)に加えて、臓器保存液中での冷保存障害が、移植時に強い虚血再灌流障害を発生させ、さらに移植後に高い確率で無機能状態を発生させる。そのため、臓器保存液に簡易な方法で水素ガスを充填して移植前に障害臓器の機能再生を進め、移植後の予後を改善させることが期待されていた。
今回、研究グループは、水素ガス貯蔵装置として利用されている水素吸蔵合金キャニスターから、臓器保存液を収容した容器内に水素ガスを瞬時に圧入することによって、わずか数分で、安全に水素含有臓器保存液を生成する新しい方法を開発した。加えて、摘出前に循環停止状態が続いて傷害を受けた高齢ミニブタの腎臓を、臓器保存液内で水素ガスと接触させ、別の高齢ミニブタに移植後にも尿排泄機能を維持できるレベルまで蘇生させることを証明した。
今回の研究は、術後急性期に焦点を当てて検証したが、今後は、免疫抑制剤投与下における長期移植腎機能に関しても検証し、マージナル臓器の移植成功率を高めることが期待される。