麻布大学の菊水健史らの研究チームが、ヒトとイヌが共生を進めることが可能となったメカニズムの新しい仮説を発表した。
イヌは最古の家畜で、ヒトへの寛容性や、ヒト同士が用いるシグナル(指差しや視線など)に対する感受性が高い。研究チームはこれまで、イヌとヒトは視線を介してお互いが絆形成や信頼に関わるホルモン「オキシトシン」を分泌し、特別な関係を構築できたことを見出した。しかし、そのような関係の起源や要因はいまだに不明である。
これに関し、デューク大学のブライアン・ヘア博士は「ヒトとイヌが社会的寛容性を獲得し、お互いの生活環境が重なり、次第に共通の社会認知能力の獲得に至った」という「ヒトとイヌの収斂進化仮説」を唱えている。
ヒトと生活環境が重なったことが重要で、これによりイヌなどの家畜はヒトに対しておとなしく扱いやすい形質を獲得した。背景に不安や攻撃を司る内分泌ホルモン「コルチゾール」の関与がある。イヌのコルチゾール値が低下し、攻撃性や恐怖反応の低下と社会的な寛容性の向上の結果、ヒトという異種との共生が可能となったとみられる。
また、イヌはヒトが示す社会シグナルに敏感になり、他種コミュニケーション能力が拡大した。並行して、オキシトシンの基礎分泌量低下により、同種内に限定的な絆形成や協力関係が緩和され、異種間との絆形成や協力へと範囲が拡張されたとみられる。
今回、収斂進化仮説を支持する内分泌の役割の最新知見と共生を可能にしたメカニズムの仮説を紹介した。今後、遺伝学や考古学、行動学、内分泌学的視点から、ヒトとイヌの共生の統合的理解により、「人の最大の友」であるイヌが生まれた背景の解明が期待される。