麻布大学獣医学部動物応用科学科の茂木一孝准教授らの研究チームは、東京都医学総合研究所などが実施している思春期のメンタルヘルスに関する大規模疫学調査「東京ティーンコホート※」を活用し、ヒトがイヌとの共生で健康が促進するメカニズムを解明する研究を進めている。さらに、ヒトのメンタルヘルス促進に有効な細菌を探索することを目指している。このような手法によるヒトの健康促進の解明に取り組む研究は、国内の大学としても前例のない先進的な研究の取り組みといえる。

 東京都医学総合研究所などが実施している「東京ティーンコホート研究」では、アンケート調査と並行して、参加者から約370名の児童を抽出し、研究所でより詳しいアンケートや健康チェックを行う来所型追跡調査を行っている。同研究チームもここに参加し、動物飼育のより詳しいアンケートをとり、その児童から唾液や皮膚の細菌叢をサンプリングしている。現在、進行中の調査によると、男児ではイヌの飼育経験がある場合、ひきこもり、不安、 抑鬱、攻撃性などについて、飼育経験がない子どもよりも良好な結果が得られ、10~12歳の男児では幼少期のイヌの飼育がメンタルヘルスに好影響を与えることが分かってきた。

 また、同研究チームは、1万年以上に及ぶ長いイヌとの共生の歴史をふまえると、イヌとヒトの常在細菌叢は異種間でありながらも相互作用しやすくなっており、そのことがメンタルヘルスに影響する可能性が高いと推測。イヌからヒトへ伝搬する有用なノマド細菌叢の特定と、特にメンタルヘルスにおける健康促進のメカニズムの解明を目指している。 さらに、今後、コホート研究で標準となるような動物共生の適正かつ効率的な曝露評価方法の開発に取り組んでいく。

 本研究成果は2019年7月29日に開催された文部科学省私立大学研究ブランディング事業の国際シンポジウムにおいて成果報告が発表された。

※東京ティーンコホート研究は、世田谷区、調布市、三鷹市在住の子供(10歳、12歳、14歳)とその養育者(主に母親の方)を対象に、普段の生活や健康に関わるアンケート調査を実施。アンケート調査からは各児童の社会性の問題、思考の問題、注意の問題、攻撃的行動、不安・抑うつ、ひきこもりなどの様々な心理尺度を数値化。これらが犬飼育(犬種、飼育歴、飼育形態など) によってどのような影響があるかを調査している。

参考:【麻布大学】獣医学部 動物応用科学科 伴侶動物学研究室

大学ジャーナルオンライン編集部

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