双極性障害および統合失調症の患者由来のiPS細胞を用いた研究で、両疾患に共通して神経細胞の形態に異常が生じることが見出された。慶應義塾大学、大日本住友製薬株式会社、名古屋大学などの共同研究グループが明らかにした。
双極性障害と統合失調症は、いずれも主要な精神疾患であるものの、その原因や発症につながる詳細なメカニズムは明らかになっていない。本研究グループは、2018年に発見した、これら精神疾患の発症に関わると考えられる新規のゲノムコピー数変異(copy number variation: 以下、CNV)である、双極性障害患者におけるPCDH15遺伝子の欠失と統合失調症患者におけるRELN遺伝子の欠失に着目した。
まず、それぞれのCNVをもつ患者由来のiPS細胞から、精神疾患における機能の低下やネットワークの破綻が指摘されている2種類の神経細胞(グルタミン酸作動性神経とGABA作動性神経)を、選択的かつ高効率に作製する方法を確立した。
その結果、2種類の神経細胞いずれにおいても、両疾患に共通して、健常者由来の神経細胞に比べて樹状突起の短縮およびシナプス数の減少が観察された。また、PCDH15またはRELNを遺伝子編集技術で人工的に欠失させたiPS細胞から作製した神経細胞においても、同様の異常が観察されることがわかった。すなわち、この異常は精神疾患において共通する病態であり、PCDH15やRELNの機能と関連する可能性が示唆された。
これまで、遺伝的背景が複雑な精神疾患では、iPS細胞を用いた研究のハードルが高く、動物モデルを使った研究でも、病気の再現には限界があった。一方、本研究成果は、病的CNVをもつ患者由来iPS細胞を用いることで、代表的な精神疾患に共通する病態の再現に成功したものであり、今後、精神疾患のさらなる病態解明や新規治療薬の開発につながることが期待される。