潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される炎症性腸疾患IBD(Inflammatory Bowel Deseases)は、腸管に慢性の炎症をきたす原因不明の難治性疾患だ。日本においても患者数が増加の一途をたどっているといい、今後もさらに増えることが予想されている。しかし、現在のところ根本的な治療法は確立されていない。
一方、これまでの研究で、IBD患者の腸管には、腸管接着性侵入性大腸菌AIEC(Adherent-invasive Escherichia coli)が多く存在することが報告されている。そこで今回、ミシガン大学、慶應義塾大学、クレルモン・オーヴェルニュ大学を中心とした国際共同研究グループは、クローン病患者から単離したAIEC株をマウスの腸管に定着させ、非炎症腸管と炎症腸管における遺伝子発現を比較した。
その結果、炎症期の腸管において、AIECは自身の代謝嗜好性を炭水化物からアミノ酸(特にセリン)に変化させており、常在大腸菌のような競合細菌との栄養素の取り合いに打ち勝って増殖優位性を獲得していることを発見した。腸管内のセリン濃度は食事性アミノ酸の摂取量により制御できるため、これにより、低濃度セリン食によって、宿主に影響を与えることなくAIECの増殖抑制、ひいては腸炎の病態改善が可能であることを明らかにした。
食事由来のセリンを減らし、炎症期の腸管におけるAIECの栄養源を奪うことで、AIECの増殖抑制が可能であることを示した本研究成果は、IBD患者に対するより安全で効果的な次世代栄養療法に応用が期待される。また、本研究で同定されたAIECのアミノ酸代謝経路を標的とすることで、IBDの新たな予防・治療薬の開発にもつながる可能性がある。