名古屋大学の貝淵弘三教授と船橋靖広助教らの研究グループは、「快感」や「意欲」などの感情を引き起こすドーパミンによる報酬(快感)関連行動・記憶形成制御の分子メカニズムを明らかにした。
ヒトの脳には約1,000億個の神経細胞が存在するとされ、相互に連結しながら複雑なネットワーク(神経回路)を形成している。その中でも「報酬系」と呼ばれる神経回路の1つは、楽しさや気持ちよさをもたらす刺激(報酬刺激)に応答して活性化する。すると、快感や意欲などの感情が引き起こされ、経験として学習・記憶する。これに関与する主な調節因子はドーパミンと呼ばれる神経伝達物質だ。ドーパミンは脳の側坐核の中型有棘神経細胞に作用し、細胞内で分子レベルの変化を引き起こし細胞の機能を調節する。また、統合失調症や薬物依存症などの精神・神経疾患の病因や病態にも関係しているとされる。
研究グループは、報酬記憶形成に関与する多機能タンパク質「CBP」と結合するタンパク質として転写因子「Npas4」を同定した。また、ドーパミンが細胞内でタンパク質リン酸化酵素「MAPK」を活性化してNpas4をリン酸化し、Npas4とCBPとの結合を促進することを見出した。さらに、Npas4のリン酸化は神経細胞のシナプス可塑性に関与する遺伝子発現を促進し、マウスの報酬関連行動や記憶形成を制御することを発見した。
今回、MAPKによるNpas4のリン酸化が報酬関連行動や記憶に関与することが世界で初めて明らかにされた。この結果によって、ドーパミン神経系の機能不全が原因である統合失調症や薬物依存症などの精神・神経疾患の治療法の開発につながることが期待される。