構造主義の祖レヴィ=ストロースは、文化を共有する集団内の婚姻を禁じるインセスト・タブーや、配偶者や子供の所属する集団を定める親族構造の存在と多様性を明らかにした。東京大学の板尾健司大学院生と金子邦彦教授の研究チームは、これらの構造の生成を進化シミュレーションによって解明した。
多くの人間社会において社会関係は血縁関係によって決まっていて、文化的に同一の集団内では近親者でなくとも、インセスト・タブーによって婚姻が禁じられている。また集団間の婚姻・親子関係の総体を親族構造と呼び、特に二つの集団間で結婚する限定交換、三つ以上の集団間で一方向の女性の流れがある全面交換などが見出された。しかし、それらの多様な親族構造がいかにして生起するかは明らかでなかった。
研究チームは、計算機上で原始社会のモデルを用いて親族構造の進化を議論。婚姻が集団間の協力を促しつつ婚姻上のライバルとの競争をもたらすことを考慮し、社会の時間発展のシミュレーションを行った。その結果、文化人類学者たちが発見した婚姻規則や多様な親族構造がパラメータに依存して自発的に生成することを示し、現実の民族誌的知見と対応して親族構造の分布が説明されうることを明らかにした。
今回の研究は、モデルによる理論研究によって多様な人間社会に通底する普遍的な構造を解明する新たな方法論を提示するものであり、「普遍人類学」の構想を与えるものという。今後の課題として、人間社会・人類史におけるさまざまな普遍的な構造について、理論モデルを用いて個人レベルの振る舞いと社会レベルの現象を結ぶ論理の解明を目指すとしている。