ウイルスは一般に、感染した細胞内で自身を複製するとともに、子孫粒子となって新たな細胞に感染することで増加してゆく。つまりウイルスは、「中に引きこもって、同一細胞内で安全に子孫を複製する」か「粒子として危険を冒して外出し、別の細胞に感染し増殖する」かの2つの戦略をもつと考えられている。

 今回、九州大学の研究グループは、国立感染症研究所との共同研究により、C型肝炎ウイルス(HCV)が、いわば「インドアウイルス」と「アウトドアウイルス」のように個性を持ち、異なる繁栄戦略を使い分けて生存していることを明らかにした。

 これまで、細胞内・外のウイルス生活環を統一的に記述する実用的な方程式はなく、ウイルスを複製するか、新しいウイルスとして細胞外に放出するかというウイルスの繁栄戦略を“数値化”する術はなかった。一方、本研究グループは、代表的な2つのHCV株を例にして感染実験を実施し、得られた実験データをもとに、ウイルス生活環を数学的に表した方程式を用いて解析した。

 その結果、生活環の中でウイルス粒子放出が占める比率は2つのHCV株間で2.7倍も開きがあり、前者は“増えやすさ”を示す指標の値が、後者は“伝播しやすさ”を示す指標の値が、それぞれの指標の最大値に近い値をとることがわかった。つまり、感染細胞の中で、ウイルスは「インドア派」と「アウトドア派」のように、2つの繁栄戦略を使い分けているのだ。

 今回判明した2つの繁栄戦略は、持続感染するその他のウイルスにも共通している可能性がある。ウイルス感染の特徴を理解することで、体内でのウイルス感染を制御する治療法の確立にもつながると期待される。

論文情報:【PLOS Biology】Should a viral genome stay in the host cell or leave? A quantitative dynamics study of how hepatitis C virus deals with this dilemma

大学ジャーナルオンライン編集部

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