宇宙航空研究開発機構(JAXA)、量子科学技術研究開発機構、および早稲田大学の研究により、月面の縦孔地形を利用すれば、宇宙放射線による被ばく線量を地上における職業被ばくの基準値以下に低減できることが明らかとなった。

 宇宙空間には様々な放射線が飛び交っており、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士は平均して1日に0.5~1.0mSv被ばくしている。ISSが周回する地球近傍では、地球磁場により放射線がある程度減弱されているにも関わらず、これは地上での被ばく量の100倍以上に相当するという。将来的に有人活動の拠点がISSから月へと拡大する場合、地球磁場による減弱効果が消失し、被ばく量の大幅な増大が懸念される。

 一方、2009年に日本の月周回衛星「かぐや」(SELENE)によって、月面に縦孔地形が発見された。縦孔は、火成活動により作られた溶岩洞のような地下空洞に繋がっていると考えられており、直径・深さ共に数十メートルに及ぶ。本研究では、縦孔とそこから続く地下空洞を放射線防護空間として利用することに着目し、最新の放射線科学研究に基づいて縦孔による宇宙放射線防護効果を評価した。

 月表側の西部に存在する「マリウス丘」の縦孔を模擬したシミュレーションで、縦孔外の月面領域の被ばく量は年間約420mSvであったのに対し、縦孔中心部では、被ばく量が深さと共に減少し、底中央部では月面の10%以下(年間約19~24mSv)となることが判明した。これは、地上における職業被ばく基準値(5年間で100mSv)を下回ることから、縦孔と地下空間を利用すれば、安全な放射線防護空間を実現できることが明らかとなった。

 地下空間の大きさ次第では、地球上と同程度の放射線環境も十分期待できるという。本成果は、有人月探査や将来の恒久的な月有人滞在に向けて、新たに遮蔽材を持ち込むことなく安全な放射線環境を確保できることを示した重要な知見といえよう。

論文情報:【Journal of Radiological Protection】Radiation dose and its protection in the Moon from galactic cosmic rays and solar energetic particles: at the lunar surface and in a lava tube

大学ジャーナルオンライン編集部

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