畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターの信迫悟志准教授らは、発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder: DCD)を有する児では運動主体感が変質していることを明らかにした。
協調運動困難を呈する神経発達障害の一種であるDCDは、学童期小児の5-6%で診断され、字が綺麗に書けない(微細運動困難)、歩行中に物や人にぶつかる(粗大運動困難)、片脚立ちができない(バランス障害)などの症状を表す。また、頻繁に精神心理的症状(抑うつ症状、不安障害)を併発することも知られている。
DCDの原因としては、運動学習や運動制御において重要な脳の内部モデルに障害があるとする説が有力視されている。一方、この内部モデルは、「その行動を引き起こしたのは自分だ」という運動主体感の生成にも関与していると考えられているが、DCDを有する児における運動主体感については不明だった。
自分の「行動の結果の予測」と「実際の結果」が時間的に一致する時、その行動は自分が引き起こしたと感じられ、運動主体感がもたらされる。本研究では、定型発達児(Typically developing: TD群)とDCDを有する児(DCD群)でどのくらいの時間誤差まで運動主体感が維持されるのか(運動主体感の時間窓)を実験的に調べ、比較した。
その結果、DCD群の運動主体感の時間窓は、TD群と比較して有意に長いことがわかった。つまりDCDを有する児では、行動とその結果の間に大きな時間誤差があっても、結果の原因を誤って自己帰属(誤帰属)してしまうことがわかった。
さらに、DCDを有する児の運動主体感の時間窓は、抑うつ症状と有意に相関していた。このことは、誤帰属が大きくなるほど抑うつ症状が重度化したことを意味する。
本研究結果は、DCDを有する児の運動主体感が変質している(時間窓が延長している)ことを初めて定量的に明らかにしたとともに、運動主体感の変質と内部モデル障害、そして精神心理的症状との間に双方向性の関係がある可能性を強く示唆したといえる。