カフェインはドーパミンを活性化させる作用を持ち、私たちヒトはコーヒーを飲むと気分が高揚することが知られている。昆虫でも、カフェインがハエの睡眠に影響することや、ハチの学習記憶能力を向上させるとの報告がある。
岡山大学大学院環境生命科学研究科のグループは、米・小麦類の貯穀害虫であるコクヌストモドキにカフェインを飲ませると、死んだふりを早くやめるようになることを2010年に発見。カフェインの摂取が昆虫の「動き」に影響すると考え、今回、「動き」を介して成立する交尾行動にカフェインが及ぼす影響を調査した。
その結果、カフェインを飲んだコクヌストモドキのオスは、飲んでいないオスに比べ、メスに求愛するまでの時間とメスにマウントするまでの時間が短くなり、交尾器も早く突出させることがわかった。つまり、カフェインはコクヌストモドキの一連の求愛行動のパターンを加速させる、精力剤的な一面を持つことが判明した。
一方、精子競争力を確認するため、突然変異体の黒色ミュータント系統のコクヌストモドキを使い、カフェインを飲ませたオスと飲ませていないオスを一匹のメスと交尾させた上でどちらのオスの精子が受精に使われたかも調べた結果は、カフェインを飲ませたオスの精子がより多くの卵を受精させることはなかった。すなわち、カフェインの摂取は精子の卵受精力(精子優先度)には影響しなかった。
本研究は、カフェインが昆虫のオスの性的衝動を活性化させることを発見した世界で初めての研究となった。カカオや茶に含まれるカフェインが自然の中でどのような機能を持つかは未だ明らかになっておらず、本成果は、植物がなぜカフェインを作るように進化したのかについても示唆を与える可能性がある。
論文情報:【Ethology】Effects of caffeine on mating behavior and sperm precedence in Tribolium castaneum