2020年10月31日、城西国際大学は、人種差別やトラウマなどについて考える国際シンポジウムを開催した。第二次世界大戦当時、米国に開設された日系人強制収容所を軸に、日米をオンラインでつないで行われたこのシンポジウム。新型コロナウイルスの感染拡大や、黒人に対する警察暴力への抗議運動などを機に、人種差別問題が関心を集めるなか、全編英語による活発な質疑が展開された。
シンポジウムのタイトルは「セツコの秘密:ハート マウンテンと日系米国人強制収容のレガシー」。日系3世のシャーリー・アン・ヒグチ氏が2020年秋、米国で出版した本のタイトルだ。ヒグチ氏の両親はワイオミング州ハートマウンテンの収容所で出会ったが、母のセツコさんは所内での体験を多くは語らないまま、亡くなった。ヒグチ氏はその歴史を伝え継ぐ使命感を抱き、収容所跡地の保存活動を続けている。
シンポジウムでは、ヒグチ氏のほか、実際に強制収容所での生活を体験したサム・ミハラ氏も講演。オンデマンド方式による事前配信を行い、当日は米国にいるヒグチ氏とミハラ氏をオンラインでつないで、公開質問会を実施した。会場には学生や教職員ら約50名、オンラインでは日米のみならずブラジルや英国などからも参加があり、関心の高さを裏付けた。
開会に先立ち、杉林堅次学長は「知識を得ることも大切だが、深く考えることがそれ以上に重要だ。ヒグチ氏、ミハラ氏とのやり取りから、皆さんそれぞれが考えてほしい」と、学生たちに語りかけた。
会場に集まった学生たちは、両氏の講演動画をもとに日米間に横たわる歴史について学び、考え、「ドイツ系やイタリア系の移民も収容所に入れられたのか」「アイデンティティーをどのようにとらえているか」といった率直な疑問を、両氏に直接英語で投げかけた。学生の質問に対し、「敵対国からの移民の中で日系人だけが差別され、収容された」(ミハラ氏)、「自らのことは米国人だと思っているが、日系の私たちは特異な経験をしてきた。その経験は自分を強くしている」(ヒグチ氏)と答えた。
さらに、ヒグチ氏は「この時代のキーワードは『GAMAN(我慢)』だった」とし、「デモもせず、静かに我慢していることが美徳だと、日系人は思っていた。強制収容所について、学校でも教えておらず、埋もれた歴史になっている。だからこそこのシンポジウムのように、知らしめる機会を作ることが大切だ」と強調。ミハラ氏も「きちんと主張することも時には必要だ。ハートマウンテンのことも、声を上げる人がいたからこそ、こうして継承できている。強制収容所から何を学び、どう考えるべきかと問い続けることを次世代に期待したい」と、学生たちにエールを送った。