マウスの尿に含まれる細胞から直接クローンを作ることに山梨大学大学院生命工学専攻の水谷英二助教、若山照彦教授、同大学発生工学研究センターの若山清香特任助教らの研究グループが初めて成功、英科学雑誌「Scientific Reports」にて発表されました。

 クローンをつくるには、まず動物の細胞から核を取り出し、核を除いた別の個体の卵子に移植してクローン胚を作製、それを代理母の子宮に移して元の個体と同じ遺伝情報を持つ動物を作るという流れになります。ただし野生動物の場合、ヒトに慣れていないことから捕まえて体を押さえつけるだけでも死ぬ危険性があります。このため、動物にストレスを与えることなく体細胞を採取する方法が模索されていました。

 個体を傷つけずに体細胞を採取する試料として毛や唾液などがありますが、それらには多数の細胞の核が混ざっており、親子鑑定には使えてもクローンの作出はできません。一方、尿中に体細胞が含まれることは以前から知られており、無菌状態で採取できれば増殖も可能といわれ、実際にこれらの細胞からヒトiPS細胞の樹立やクローン牛の作出も報告されています。しかし、野生動物の尿を無菌で採取することは難しく、また小動物では得られる量も少なく、実際に利用できるのかはっきりしていませんでした。

 そこで同チームは、マウスの尿から採取した細胞を直接利用してクローンを作ることができるかを検討。その結果、オスでもメスでも、さらには老齢の個体でも、尿細胞からクローンマウスを作出することができました。次に核を除いた別のマウスの卵子に移植してクローン胚の作製を試みると大半が受精卵と同程度の状態まで成長し、これを代理母マウスの子宮に移したところ、1~3%の確率でクローンが生まれました。オスとメスのクローンマウスを交配した結果、繁殖能力が正常であることも確認されました。

 若山教授は「例えば葉の上に残った絶滅危惧種の尿から数十個の細胞が採取できれば、クローンを作れる可能性がある」と話しています。今後はより現実的な条件として、排尿後何時間までの尿細胞が核移植のドナーとして使えるか検討する予定とのことです。

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