名古屋大学は、7500~8000年前の家畜ヤギのDNAを抽出・増幅してその系統の解析に成功したと発表した。本研究成果は、名古屋大学博物館・大学院環境学研究科の門脇誠二講師と同研究科の大西敬子大学院生(当時)、東京大学の西秋良宏教授と新井才二大学院生およびアゼルバイジャン共和国科学アカデミーのFarhad Guliyev博士との共同研究によるもの。
世界でも最古級の農耕牧畜経済が発達した地域は、西アジアの「肥沃な三日月地帯」だ。そこで始まったムギ・マメ類の栽培やヤギ・ヒツジ・ウシ・ブタの家畜が世界各地に普及していったことが、これまでの研究で分かっている。しかし、こうした農業の世界的普及がいつ、どのように進行したのか、という具体的プロセスについては未解明な部分が多く残されている。
本研究では、肥沃な三日月地帯の北方に位置するコーカサス地方において、古代農村の遺跡(7500~8000年前)を発掘調査し、当時の家畜ヤギの骨を採取。この骨からミトコンドリアDNAを抽出・増幅し、現生ヤギの参照DNAを用いて系統解析を行った。その結果、コーカサス地方の古代家畜ヤギは、在地の野生ヤギの系統と大きく異なり、肥沃な三日月地帯内の北東部(トルコ東部~イラン北西部)の野生ヤギと同じ系統に含まれることが分かった。肥沃な三日月地帯は、家畜の飼育や穀物の栽培がコーカサス地方よりも早く(約1万年前以降に)発達した地域だ。この起源地からコーカサス地方へ、8千年前の古代に家畜ヤギが移送されていた証拠だという。
この結果は、完新世(約11,700年前から現在まで)になって人類社会に農業が広く普及したプロセスの最初期の様相を示す具体例であり、農業普及プロセスの解明に貢献すると期待される。