東京大学と産業技術総合研究所のグループは、無秩序な分子集合体から結晶核が形成される過程を連続的に撮影して解析することに初めて成功した。
従来、結晶に関しては、結晶中の原子配列など静的な構造が明らかにされてきた一方で、「結晶化」という動的な過程を原子レベルで詳細に観察することは困難とされてきた。特に、結晶化現象の最初期過程である核生成は、その確率論的な挙動と微小な時間・空間スケールから、従来の実験手法による解析は極めて困難だった。
本グループでは、「原子分解能単分子実時間電子顕微鏡(SMART-EM)イメージング法」とよばれる技術開発により、小さな分子1つ1つや分子集合体の動きを動画撮影して記録する研究に取り組んできた。今回、この技術にあわせて、カーボンナノチューブ(CNT)をナノフラスコとして利用し結晶化を空間的に制御することで、結晶化現象の原子レベルでの直接観察が達成されたという。
実験では、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液を円錐状CNTに内包させ、その後乾燥により水を除去したところ、円錐形状によりCNT先端においてNaCl分子の自己集合・核形成が誘起され、さらにCNT内部というナノメートルサイズの制限空間が分子拡散を抑制することで、1ナノメートル程度のNaCl結晶核が再現性よく繰り返し形成された。適切な空間を設計すれば、核形成過程を原子レベルで制御可能であることを示す成果だ。
また、本研究により初めて、これまでその性質が明らかでなかった、結晶核を形成する以前の分子集合体が、結晶に類似した秩序だった構造と無秩序な構造との間を行き来する、構造流動性を持つことも判明した。
結晶化過程をミクロな視点で見直すことで新たな知見を見出した本成果は、望みの形状や性質を持つ新材料を分子レベルでの観察に基づいて設計・開発する、といった革新的技術につながることが期待される。