北海道大学の村上正晃教授らは多発性硬化症疾患(EAE)という神経疾患を発症したマウスを用いて、痛みが病気の症状を悪化させる原因となっていることを明らかにしました。これまで痛みは病気が発症した結果の副産物としか認識されておらず、病気の症状や進行との直接的な関係は調べられていませんでしたが、今回の研究によってその逆も起こり得ることが分かってきました。
村上教授たちはマウスを使った実験でこれまでに多発性硬化症(EAE)という免疫疾患が、筋肉の刺激を受けて悪化することを突き止めていました。免疫細胞が腰髄の血管に集まるためです。そして今回の研究では痛みが病気の症状にどのような影響を与えるのかを調べました。まず、EAEの原因となる細胞を健康なマウスに移植することで病気を発症させます。これに鎮静剤を与えて痛みを緩和させるとその症状が改善することが分りました。一方で痛みを与えたマウスでは、改善しては再発を繰り返したのです。ヒトのEAEの経過も再発を繰り返すことが知られていますが、この実験により再発の原因が痛みであることが示唆されました。
今回の研究によって明らかになったのは、痛みが病気を誘発するというこれまでの常識とは異なる事実です。今後は神経の情報伝達の抑制によって痛みを和らげることで病気の再発を防いだり、新たな治療法の開発につながることが期待できます。今後は他の病気でも痛みや神経のネットワークが原因となるものがないかを調べていくということです。