東京大学先端科学技術研究センターの小坂優 准教授らは、カリフォルニア大学との共同研究により、熱帯太平洋に起源を持つ気候内部変動が地球温暖化の「ペースメーカー」の役割を果たしてきたことを明らかにした。
地球温暖化に伴い、地球全域で平均した地表気温(全球平均気温)は産業革命前から1℃近く上昇。その傾向は20~30年ごとに上昇期と停滞期を繰り返す階段状の変化とされている。しかし通常の気候変化シミュレーション(歴史気候再現実験)は、気候モデルに温室効果ガス濃度変化などの外部強制力を用いることで百年規模の一方的な温度上昇は再現できるものの、地球温暖化の「階段」のタイミングの再現は困難だった。
今回、研究チームはある気候モデルにおいて、外部強制力に加え、熱帯太平洋の海面水温変動を、観測された変動と強制的に一致させる「熱帯太平洋-全球大気実験」を実施。シミュレーションの結果、過去120年間の階段状に上昇する全球平均気温変化を、年ごとの比較が可能な精度で極めて正確に再現することに初めて成功した。
この結果を同じモデルによる歴史気候再現実験と比較したところ、熱帯太平洋域の内部変動は、地球温暖化の「ペースメーカー」として昇温期と停滞期の交代時期を決定してきたことが判明した。
さらに、全球平均気温の観測値から熱帯太平洋変動の影響を除去する手法も提示。外部強制力による変動の抽出が可能となった。全球平均気温上昇の観測値は停滞期のため20世紀初めと比較して0.9℃ほどに抑えられていたが、この手法によると、外部強制力による気温上昇はすでに1.2℃に達していると推定されるという。
研究チームは、2015年にパリ協定で合意された「産業革命以降の温度上昇を2℃未満に抑制する」という国際目標について、この手法により、人間活動による地球温暖化の進行度をリアルタイムで監視できるようになるとしている。