昆虫は成長に伴い脱皮しても、クチクラと呼ばれる硬い外殻を表皮に再形成することができ、外界からの異物混入を防ぐとともに、その形態を維持している。脱皮したばかりの外皮層は柔らかいが、昆虫の外皮層に存在する酵素がポリフェノール類の空気酸化を促進することで、複数のキチン線維などが橋渡し的に結合(架橋)して強固な膜を得るという。
東北大学学際科学フロンティア研究所(大学院工学研究科兼務)の阿部博弥助教と同多元物質科学研究所(材料科学高等研究所兼務)の藪浩准教授(ジュニア主任研究者・ディスティングイッシュトリサーチャー)らは、この昆虫の脱皮に伴うクチクラ再形成のメカニズムを模倣し、代わりにドーパミンとゼラチンゲルを用いることで、類似の硬化プロセスを再現することに成功した。
ドーパミンは空気中の酸素と自ら酸化反応を起こし、ドーパミン同士が自発的に結合する性質を持つことから、ゼラチンゲル表面でこの反応を進行させると、酸化したドーパミンがゼラチン分子同士を架橋する役割を果たす。結果として、空気とゲルの界面に硬化されたゼラチンの膜を形成でき、空気とゲルの界面形状を工夫すれば二次元・三次元の形状制御も可能なので、いわば3次元ゲルプリンティングとしての活用が可能だ。
このプロセスで得られる膜は、ゲル表面へのタンパク質などの分子修飾および放出を制御することができるといい、さらにゼラチンがベースとなっているために生分解性・生体適合性にも優れている。これらの点から、今後、薬剤徐放基材や再生医療分野への応用が期待できるとしている。