筑波大学は宇都宮大学と共同で、遺伝に関わるあるタンパク質が成体のイモリの網膜再生に必須であり、このタンパク質がないと人と同じ網膜の病気にかかることを明らかにした。このタンパク質は人にもあることから、網膜再生治療法の開発につながる可能性があるという。
イモリ(アカハライモリ)は眼の網膜(神経性網膜)が傷つくと、網膜の外側を覆っている細胞(網膜色素上皮[RPE]細胞)が上皮の特徴を失って遊離する。さらに、眼の内部(硝子体腔内)で、さまざまな組織の細胞に変化できる多能性細胞(RPE幹細胞)に変化し、新しい網膜とRPE細胞を再生する。しかし、人の場合は網膜が傷つくとRPE細胞が多能性細胞に移行しても、最終的に筋線維芽細胞という細胞に転換して傷口を覆い、網膜剥離を進行させる増殖性硝子体網膜症という病気を引き起こす。研究チームはRPE幹細胞に新規に発現するPax6というタンパク質(転写因子)に注目し、網膜再生への関与を検討した。
今回、研究チームは遺伝子機能を制御できるイモリの作製に初めて成功した。このイモリを用いてRPE幹細胞でのPax6の発現を抑制し、網膜再生の正常な進行を妨害。その結果、網膜が再生せず、RPE幹細胞が最終的に筋線維芽細胞に分化し、人と同様の増殖性硝子体網膜症の症状を示すことを発見した。人の場合もRPE肝細胞がPax6を発現するが網膜は再生しない。これは、イモリが進化の過程で人と異なるPax6の機能を獲得したためと推測されるという。
研究チームは今後、RPE幹細胞におけるPax6の働き方や役割を分子レベルで解明し、網膜再生のメカニズムを明らかにすることにより、人の網膜再生治療法の開発につなげたいとしている。