沖縄県の西表島と石垣島に合わせて200羽ほどが生息するカンムリワシは、絶滅危惧IA類および国の特別天然記念物にも指定される希少な中型猛禽類である。
一方、1978年に強い毒を分泌することで知られるオオヒキガエルが人為的に石垣島に持ち込まれた。カンムリワシへの毒の影響が危惧されたが、石垣島のカンムリワシは、頻繁にこのカエルを捕食する姿が観察されているにもかかわらず、中毒症状を起こしたという報告例はない。
なぜカンムリワシは、毒を持つ外来種であるオオヒキガエルを食べることができるのか?この謎を明らかにするため、京都大学の研究グループは、カンムリワシの遺伝的な毒耐性の有無を調べた。
オオヒキガエルは、強心配糖体(生命維持に不可欠な膜貫通型タンパク質の働きを阻害する)の毒を分泌する。この毒を分泌する動物や植物を食べる生物の間では、ATP1Aという遺伝子の配列の一部に特定の変異を持つことで強心配糖体への耐性が獲得されていることがわかっている。
研究グループがカンムリワシのATP1A遺伝子を調べたところ、強心配糖体への耐性を持つヤマカガシというヘビと同一の配列を持つことがわかった。また、沖縄に生息するカンムリワシだけでなく、インドネシアに生息するカンムリワシ亜種もATP1A遺伝子に同一のアミノ酸配列を持っていた。他方、オオタカ、イヌワシ、カリフォルニアコンドルなど、他の猛禽類は毒耐性に関連する配列を持っていなかった。
カンムリワシの亜種は東南アジアに広く分布しており、沖縄以外のすべての生息地には、もともと強心配糖体を分泌する生物が生息している。これらのことから、カンムリワシは種として強心配糖体を分泌する動物を食べるために遺伝的な耐性を持っていた可能性が高いとしている。沖縄に隔離された亜種も、その耐性を維持し続けた結果、偶然にもオオヒキガエルの人為的な導入に柔軟に適応できたと考えられる。
本研究は、カンムリワシの「有毒外来種を捕食する」という特徴的な行動の背景に、知られざる進化生態を明らかにした重要な成果である。