東京大学と東京農工大学の共同研究グループは、有毒な金イオンを還元して無毒な単体の金に変換する天然物「デルフチバクチンA」の完全な化学構造を世界で初めて決定し、金イオンの還元メカニズムも明らかにした。
金塊表面に生息するバクテリアDelftia Acidovoransは、デルフチバクチンAを生産することで有毒な金イオン(Au(III))を還元して単体の金へと速やかに無毒化することができる。そのため、本来はバクテリアにとって有害な環境である金塊表面でも生存することができるという。
この優れたAu(III)還元能をもつデルフチバクチンAは、金をナノ粒子として形成する生体由来分子として注目されてきたが、発見から12年を経てもなお、完全な化学構造は未知のままであった。
本研究では、デルフチバクチンAを効率的に化学合成するための方法論を新たに確立した。これにより、デルフチバクチンAとして可能性をもつ全てのジアステレオ異性体(16種類)の合成に成功した。これらの構造データを、天然物デルフチバクチンAのデータと比較することにより、デルフチバクチンAの完全な化学構造を世界で初めて解明した。
さらに、合成した全てのジアステレオ異性体の金イオン還元速度を比較した結果、デルフチバクチンAが最も還元速度が大きいこと、Au(III)とデルフチバクチンA を混合すると、デルフチバクチンAのもつアミノ酸fhOrn-6が酸化されることでAu(III) が還元され、単体である金のナノ粒子が生じることを見出した。この成果は、これまで不明であったデルフチバクチンAの金ナノ粒子形成メカニズムを世界で初めて明らかにしたとともに、バクテリアの進化の過程でデルフチバクチンAの構造が金イオンの還元に最適化されたことを示唆している。
本研究成果をもとに、デルフチバクチンAの構造を応用することで、有毒な金イオンの除去や、金を形成する新たな構造基盤の確立につながることが期待される。