大阪大学大学院のYU Jiaxi氏(2025年3月博士前期課程修了)らの研究グループは、水害後の建物被害を迅速・正確に評価するための新たなAI技術を開発した。ラベル付きの訓練データが限られるという災害時の典型的な課題に対応するため、深層学習と半教師あり学習を組み合わせた点が特徴という。
迅速・正確な建物被害評価(BDA)は効果的な災害対応に不可欠だが、災害直後は大量のラベル付きデータの入手が難しく、衛星画像での被害兆候が微妙だ。既存の深層学習による変化検出モデルには、再現率の低さや被害レベルの誤分類(「全壊」を「被害なし」と誤認する)などの問題があった。
そこで研究グループは、まず水害後評価に特化したベンチマーク(比較・評価の基準となる標準や参照点)を確立し、教師あり学習モデルの転移可能性と半教師あり学習(SSL)の性能を体系的に評価した。SSLは少量のラベル付きデータと大量のラベルなしデータを用いて学習する機械学習のアプローチのことだ。
その結果、新たに開発したSSL手法は、わずか10%のラベル付きデータで完全教師あり学習の約74%の性能を達成し、水害シナリオにおける「画像レベル一貫性正則化」手法(入力がわずかに変更されても、モデルが同じ予測を生成するように促す技術)の有効性を実証した。
さらに、軽量な深層学習モデル「SPADANet」を提案。「被災建物の見逃し」という致命的なエラーを大幅に削減し、再現率をベースラインモデルと比較して約9%向上させた。
今回の研究は、将来の災害対応AIに不可欠な設計原理を提示し、人命救助活動のための、迅速・効率的な深層学習モデルの開発に貢献するものとしている。