農研機構、東北大学、帯広畜産大学、理化学研究所の共同研究チームは、地球温暖化の一因となる一酸化二窒素(N2O)を分解する能力の高い根粒菌とダイズを優占的に共生させるシステムを構築し、ダイズほ場からのN2O放出を抑制することに成功した。
N2Oは二酸化炭素の265倍もの温室効果を示すガスである。N2Oの主要な発生源は農業活動で、とりわけ農地からの放出が大きな割合を占めている。一方、ダイズなどのマメ科植物が根に形成する根粒の内部には、土壌細菌である根粒菌が共生しており、一部の根粒菌は、N2Oを窒素へと分解する能力をもつ。そこで本研究では、N2O分解能力の高い「N2O削減根粒菌」を優占的にダイズに共生させる技術を開発した。
通常、N2O削減根粒菌をダイズに接種しても、土壌中の様々な土着根粒菌との感染競合に敗れてN2O削減能力を十分に発揮できない。そのため、特定の「不和合性遺伝子」をもつダイズが、特定の根粒菌が分泌する「エフェクター」と呼ばれるタンパク質を認識すると、その根粒菌の感染を阻止するという「共生不和合性現象」を利用した。
研究チームは、それぞれ異なる不和合性遺伝子を持つダイズ品種「ぼんみのり」と「カラスマメ」を交配し、土着根粒菌の感染を阻止する「不和合性遺伝子集積ダイズ」を作出した。さらに、自然変異によりエフェクターを作らなくなったN2O削減根粒菌を選抜し、不和合性遺伝子による感染阻止を回避する「不和合性回避型N2O削減根粒菌」を用意した。
不和合性遺伝子集積ダイズと不和合性回避型N2O削減根粒菌を組み合わせることで、土着根粒菌の感染を阻止し、N2O削減根粒菌が優占的にダイズに共生することができる。この組み合わせにおけるN2O削減根粒菌の根粒占有率は92%まで上昇した。また、ほ場(宮城県)において不和合性遺伝子集積ダイズを栽培して不和合性回避型N2O削減根粒菌を接種したところ、N2O削減根粒菌の根粒占有率は64%となり、ほ場からのN2O放出量は、非接種区の26%程度にまで減少することを示した。
本研究で開発した技術により、ダイズほ場からのN2O放出量を削減できるため、環境負荷の少ないダイズ生産が可能となり、地球温暖化の抑制に貢献すると期待される。