新型コロナウイルス感染症は世界に様々な変化をもたらしたが、ロックダウンにより、大気汚染が激しい都市の多くで大気汚染レベルが大幅に低下したという。
世界でも有数の大気汚染の過酷な都市があるインドでも、2020年3月25日に厳しいロックダウンが開始した後、きれいな青空が戻ってきたと多数の報告があった。大気汚染物質濃度の低下において人為的な影響を調べるには、風の流れなど大気中の自然現象による影響と区別する必要がある。そこで今回、総合地球環境学研究所を中心とする研究者らは、衛星データと数学的モデリングを用いた新しい研究手法を開発し、インドの首都デリーとその周辺地域で大気汚染物質のひとつである窒素酸化物のレベルにロックダウンが及ぼした影響を調査した。
この手法では、数年にわたる季節的および年次的な衛星データを分析することで、ロックダウンがなかった場合の窒素酸化物レベルを予測した。また、定常状態における連続の方程式を用いて、大気中の濃度を元に推定される窒素酸化物のトップダウンの排出量を分析した。その結果、自然現象だけでは、2020年の窒素酸化物レベルの劇的な低下を全く説明できないことがわかった。
推定された都市部における窒素酸化物の排出量変化からは、排出量の72%が交通と工場のみに起因する人為的活動由来であることも判明した。一方、ロックダウン解消後には、農村部の方が都市部よりもただちに窒素酸化物の濃度が増えていることも突き止められたが、このことは、農村部ではロックダウン解消後に藁焼きなどの農業活動が即座に再開されたことによるとしている。
今回開発された研究手法は、人為的な影響を自然的な影響から区別できることによって、今後の大気汚染に関する適切な政策決定を導くために役立つこと期待される。